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嘘がつけない

「それじゃあ、鉢屋さんって人数が多いからって理由でこの大学を選んだんですか?」
「んー、まぁそうかな」
「ふーん、変な理由ですね」

あの出会いから何かと話しかけてくるようになった伊織は、授業で被るものがあるときは、俺の隣に座るようになった。
何がしたいのか、伊織が何を考えているのかは知らないけれど、この状況に参っているのに、それでも心の中では喜んでる自分がいて。
馬鹿だな、なんて自嘲して、表面上は親しくなりすぎないように、一線を引いていた。

あれから、あの男と一緒にいるところを見たことはない。
別れたのか、なんて不躾な質問ができるほど親しくない自分には聞けなくて。
もういいと諦めたはずなのに、どこかで噂が聞けないだろうかと、馬鹿みたいに他人の話に耳を傾けた。
それでも伊織とあの男との話しを聞いたことはなかったが。

何がどうなって俺の入学理由を話すことになったのか記憶が曖昧だ。
伊織は俺の理由を聞いて少し困ったような苦笑いをしている。
まあ一般的に俺の入学理由はどこかおかしいものだというのは自覚しているし、もともと人に話すようなことではない。
それなのに、気づいたらぺろっと話をしてしまっていた。
誤魔化すでもなく嘘をつくでもなく、正真正銘の本当の事実を。

・・・まだ、俺は過去に囚われている。
彼女はもうあの時俺が愛した伊織とは違うって分かっているのに、伊織の前だと素直に何でも話してしまう癖が治っていなかったみたいだ。

俺は彼女に嘘がつけない。
それだけで、まだ何も吹っ切れていないのだと、俺はまた自覚することになるのだった。






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