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「ねえ雷蔵。大事な話があるの」
「ん、なに?なにかあったの?」
「うん」
夕飯の席で彼女は微笑みながら、それでも目は真剣で、大事な話がるのだと言ってきた。
先を促してもふふふと笑ってばかりでなかなか話してくれない。
表情からして悪い話ではないだろうと思うが、それでも彼女がこんな風に話をしてくることはないから、気持ちが急いてしまう。
僕はちょっと膨れながら、意地悪するように笑っている彼女にもう一度先を促した。
「ほら、早く言ってよ」
「んー?・・・ふふ、実はね。・・・・・・・・・赤ちゃんができたの」
・・・・・・・・へ?
照れたように少し頬を染めて俯きながらこちらを窺ってくる彼女の顔は、大変可愛らしい・・・ってそうじゃない!
え?今、赤ちゃんって、赤ちゃんって言った!?
え、じゃあ、その・・・・伊織のお腹の中に、僕と、伊織の・・・?
「・・本当に?嘘、じゃないよね?」
「本当よ!こんな嘘なんかついたりしないわ」
「・・・・・」
「・・雷蔵?」
「あ、伊織・・・・・僕、あの。なんて言ったらいいか」
「・・・・・嬉しくなかった?」
「まさかっ!そんなことっ・・・・・・」
ただ頭の中が真っ白で、嬉しくて嬉しくて仕方がないのに、上手く言葉が出てこない。
嬉しい、嬉しいんだ。本当だよ?
僕は食卓を迂回し、不安そうにこちらを窺っている伊織の腕を思い切り引き寄せて、自分の胸に抱きしめた。
言葉にすることが難しいなら、行動で示せばいいことだ。
嬉しいのだと、すごく幸せなのだと、彼女に伝えるために。
「愛してるよ、伊織」
「っ雷蔵!・・私も、愛しているわ」
心の奥深くで燻ぶる一抹の不安を、僕は見ないふりをした。
続
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