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名を呼んでもその子は反応してくれなかった。
三郎じゃないとしたらとんだ恥さらしだ。
だけれど私にはその子が三郎以外に見えないのだから、きっとあっているはずだ。
だとしたら、三郎が私の声に反応しない理由は一つ。
怒っているんだ。
目の前のこの子はにこにこと笑顔を振りまいているけれど、細く見える瞳の奥が怒りを宿しているのがわかる。
三郎は本当に怒ると、それを見せようとしないのだ。
なんと面倒なことか、と毎回思うのだけれど、呆れながらもそれに付き合い謝る私は学習能力がないのか、学習する気がないのか。
「三郎、ごめんね?」
そっと近寄ってふわりと抱きしめた。
床に座り込んでいる三郎の前に膝立ちをして、三郎の首を抱き込んで、ぎゅっ三郎を自分に引き寄せて、ごめんね、と呟く。
それは三郎が怒ると毎回していること。
もはや儀式のようなそれは、しかし三郎には効果覿面で。
ぎゅぅっと私の背中に細い腕が回されて、弱いけれど精一杯の力で抱きつかれて。
「遅いんだよ」
なんて弱々しく呟かれては謝る他ないというもので。
「ごめんね、ごめん。三郎ごめんね」
何度も何度も呟けば、その度三郎は頭を摺り寄せてくる。
ああ、あの綺麗な黒髪が見たい。
さらさらの髪に指を通して、頭を撫ぜてしまいたい。
「三郎、外してもいい?・・・三郎が見たい」
「・・・うん。伊織なら、いいよ?」
少しの間の後の三郎の言葉に、私は柄になく嬉しくなって、三郎を抱きしめていた手を一端離した。
ふわふわの茶色い髪をぐっと引けば、ばさりと音を立てて床に落ちる。
その代わりに、三郎の綺麗な黒髪が現れた。
けれどそれは、二月前の時よりも格段に短くなってしまっていた。
「・・・変装には、長いの邪魔だったから」
そんな問題ではないのだけれど、ああこんな時に自分のこの複雑な気持ちを伝えることすら面倒だと思ってしまう自分の性格が嫌になる。
ま、三郎が納得しているのなら、それでいいのだけれどね。
族
なんだこれ?^^
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