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空を仰ぎ見ると、伊織を思い出す。
道端に花が咲いていると、伊織の笑顔がよみがえる。
そこかしこに君がいる。
君の気配がたくさん残ってる。
それは少しずつ消えて、最後にはなくなってしまうのだとわかっているけれど。
私はそれを乗り越えられるくらいには、成長したのだと、そう思うんだ。
雷蔵が委員会の当番で部屋にいないときは、決まって兵助かハチか勘右衛門が一緒にいてくれた。
いつもいつもべったりじゃなく、程よく距離がある私たちだったけれど、伊織がいなくなった日から私の周りは常にみんなで固められていた。
誰かがいなくても他のみんながいて、私を決して一人にはしなかった。
だから私が泣けるのは、伊織を思って泣けるのは、兵助もハチも勘右衛門もいなくて、雷蔵も寝入ってしまっている深夜だけだった。
深い闇の中で大きく綺麗に光る月を見て、伊織を思い出したこともある。
伊織と過ごした幸せな日々を夢に見て、静かに泣いたこともある。
伊織が泣いていて、助けてと請われて、でも助けられなかった夢は何度だって見た。
その度に目が溶けてしまうんじゃないかというほどに泣いて、それでも後悔は消えてなくならなくて。
人間ってあんなに泣けるのだと初めて知った。
両親は、それも定めだと、泣いていたけれど私よりも早い時期に心を整理していた。
きっとこんなことがあるだろうと、私の後をついて伊織が学園に入った時には、覚悟をしていたのだという。
私は幼かったのだ。
人が死ぬということは、この世では簡単に起こりうることなのに、それは自分たちには関係のないどこか遠くのことなのだと、勘違いをしていたのだ。
親戚が死んだことがあった。
先輩が死んだこともあった。
同級生でさえ死んだことがあったというのに、私は私と私の周りにはそれは起こり得ないと思っていたのだ。
伊織が死んだ時、思い知ったのだ。
人の命など簡単に消えてしまうのだと。
どれだけ大切に思っていて、守っていようと、自分の知らぬところでも時間は進んでいるのだと。
私に足りなかったのは覚悟。
そして、今が大切なんだと思うこと。
伊織との思い出は何にも代えがたい、とても大切なもの。
忘れないように消えないように、何度も思い出して一人胸の中にしまっておくんだ。
でも、私は生きているから、この気持ちだけは消化して先に進んで行くね。
愛しているよ、愛しているよ。
「愛して”いた”よ」
<私もあなたを愛していました、三郎兄さん>
伊織の優しい声が聞こえた気がして。
ありがとう、私の大切な妹よ。
私は伊織への最後の涙を静かに流した。
完
竹谷で終わってて、なんかあれだったから。
三郎サイドっぽいものを付けてみた。
^^
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