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庭師な俺と主人な彼女

ある場所に大きな屋敷が一つ、その存在を際立たせ建っていた。
その屋敷の庭はとても広く、季節ごとの花や木々が植えられ、見る人を魅了する程であった。
その庭にパチン、パチンと鋏の音が響く。
茶髪のまだ年若い一人の男が、脚立の上で黙々と木の剪定を行っていた。

その名を鉢屋三郎という。




庭師な俺と主人な彼女




俺の家は代々この秋原家に仕える庭師だった。
俺の親父も、祖父も曾祖父もその前もずっと、かれこれ何年だろうか?
詳しくは知らないが、この秋原家が力をつけそれなりに大きくなり始めたころからずっと、庭師は俺の家系が担っていたのだと、曾祖父に聞いたことがあった。
だから俺は生まれたときから、この家の庭師になるのだと周りから口を酸っぱくして、耳にタコができるほどにそう聞かされてきた。
最初はもちろん反抗した。
それはもう誰にも手がつけられないというほどに、抵抗して抵抗して。
だけど高校に入って、この家の一人娘の存在を知った。
それからだ、俺の道が決まったのは。

俺はこの家の庭師を、死ぬまでやるのだと、ようやく理解したのだ。

彼女はとても物静かな人間だ。
他人とのいざこざを嫌い、分け隔てなく人に接し、とても穏やかに笑む人だ。
常に春の温かな日差しをまとっているかのような、そんな人間だ。
そんな彼女に、俺は惚れた。
一目で魅了された。
この庭のように。

それから俺は親父たちに誠心誠意をこめて謝罪し、これまでの遅れを取り戻すべく必死に勉強した。
もちろん庭師としての生き方を。
暇さえあれば庭を見て、木や花の世話をする。
そんな日々を繰り返し、時間の流れは早く、早々に高校を卒業した。
そして四年ほどは親父と庭師の仕事をし、今では一人任されるほどになれた。

パチン、パチンと剪定しながら、俺は意識を背後に向ける。
今手入れをしているのは椿の木。
その椿の木が見える部屋は、秋原家の一人娘、伊織の部屋だけで、つまりは俺の後ろには伊織の部屋があるってことだ。
伊織は大学へ進学したのだと、高校卒業の日に親父に聞いて知っていた。
今は四年生で授業もそんなに多くないらしく、一日部屋にいることもしばしばあった。
今日もそのようで、部屋には伊織の気配がする。
俺はちょっと嬉しかった。

パチン、パチンと鋏が鳴る。
伸びすぎた枝は全て鋏が入れられる。
俺は庭師だ。
伸びすぎた枝は切ってやる。
この庭の椿の枝も、俺の心に巣くう、大きく育った椿の枝も。
この気持ちは抱いてはいけないものだから。
この恋は育ってはいけないものだから。
これ以上大きくなってはいけないのだと、一定の大きさから枝を伸ばさぬように。

パチン、鋏の音が鳴る。
また一つ、椿の枝が落ちていく。






完・・・?

身分違いの恋ってやつを書きたかったorz
 

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