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仙水【うぬぼれ】

この忍術学園には、ある種名物のようなものがある。
それは毎日のように起こるので、聞く人聞く人がまたかと呆れたようにため息を零すくらいには有名であった。

「たーちーばーなー!仙蔵ー!!」
「・・・うるさい!少しは静かにできんのか!!」

くノたま五年生の秋原伊織は、忍たま六年生の立花仙蔵を好いていた。
立花がどれだけ嫌がろうと避けようと、お構いなしに自分の思いを告げるほどに、彼女は立花を好いていた。
それは何もずっと前からそうであったわけではなかった。
彼女の立花好きが顕著に現れたのは、この春を迎えたころだった。
それまで立花と秋原の接点などほとんどなく、話を交わしたことも両の手に足りうるほどだった。
立花に至っては、秋原の名を知っているかさえ怪しいと思われるほどに、彼らに接点はありはしなかった。

それでも秋原は立花を好きになり、それは日を追う毎に増していった。

この春、秋原は初めての告白というものを立花にしたのだ。
しかし今までに接点のない二人、立花が告白を断ることなど誰に責められることでもなかった。
案の定断られ、しかし秋原はそれでも諦めはしなかった。
次の日から立花への猪突猛進過ぎるアプローチが始まるのである。

「ね、今度の休みは何か用事が入ってたりしますか?」
「・・・生憎ととてつもなく不愉快ではあるが文次郎と買い物に行かねばならない」
「えー!嫌なら潮江先輩に買い物を頼んで私と一緒に町を回りましょうよ!」
「申し訳ないが、秋原と町を回るくらいならば文次郎との方がまし、というものだ」
「・・・またまたー。照れなくてもいいんですよ?」
「私のどこを見れば照れているなどという言葉が出てくるのか、いささか疑問ではあるが、ここでさよならだな」

そう言って、立花は作法室の障子をピシャリと閉めたのだった。





「あーあ、報われないなー」

秋原伊織は尾浜勘右衛門とたいそう仲が良かった。
忍たまとくノたまという間柄、仲良くなるということは至難の業であろうが、一年生のころからごく普通の交流をもっていた伊織と勘右衛門は、年月を重ねるごとに知人から友人へ、友人から親友へとその関係を深くしていったのだ。
伊織は勘右衛門への絶対の信頼を置いている。
それは彼らの今までの時間の長さが為せる技だった。

「本当に報われないねー。もうどれくらい経ったっけ?」
「・・・勘ちゃんはもうちょっと歯に衣を着せてもいいと思うのだけど、どう思う?」
「んー、それよりさーどれくらい経ったっけって聞いてるんだけど」
「勘ちゃん、私の対しての遠慮とかないよね本当に。・・・もうすぐ三月ですー」
「もうそんなに経つんだっけ?」

時間の経過は早いなー、と零す勘右衛門に伊織は頬を膨らませた。
親友という立場だからこそのこの態度なんだろうが、たまには優しくしろと言ってやりたくなる。
しかし言ったところで態度を改めるような勘右衛門ではないし、改められたらそれはそれで居心地悪くなるのはきっと伊織の方なのだ。
それならば、この開けっ広げな態度も親友としての証なのだと、ありがたくそのままでいてもらうのがいいのだろう。

伊織は一つ苦笑を浮かべ、勘右衛門の膝に寝転がる。

「あ、また俺の膝使うー。足痺れちゃうだろ!」
「いーいーじゃーん。勘ちゃんの膝気持ちいいんだもん!はー極楽極楽」
「・・・おばさん臭いなーもー」

口ではいろいろ言うけれど、これはこれで勘右衛門も伊織を大事にしているのだ。
だから文句は言っても伊織の頭をどかそうなどとはしない。
伊織もそれが分かっているから、勘右衛門に甘えるだけ甘えるのである。
膝に頭をぐりぐり擦りつけて、その度に勘右衛門からくすぐったいとの言葉をもらい、二人でくすくす笑いあいながらその日の午後を過ごしたのであった。






あーあー、伊織も早く立花先輩のことなんて忘れちゃえばいいのに。
こんなに大事にしてるのに、気づいてもらえないもんなんだなー。

勘右衛門は、自分の膝で安心しきった顔で寝ている伊織の幼い顔をのぞき見る。
こうして見るとただの女子である伊織も、普段はちゃんとくノたまとしてその力をいろいろなところで発揮している。
例えば、自分以外の五年忍たま対象で腹下し薬入りまんじゅうを作ったり。
例えば、四年の綾部の掘った蛸壷を利用してその付近に新たな罠を張ったり。
例えば、六年の先輩方をあの手この手で騙し私物をとってくるという授業で好成績をとったり。

伊織はそれはそれは優秀なくノたまなのだ。
そんな伊織が寝顔をさらすのも、寝ているときにそばに許す人も、全部全部自分だけ。
尾浜勘右衛門ただ一人なのだ。

無意識下で寄せられる日々の伊織からの好意は、勘右衛門にとってそれはそれは気持ちのいいものだった。
一年生のころから親しくしているくノたま。
そんな彼女に対して、特別な気持ちを抱かないなど、年頃の勘右衛門にはあり得ないことだった。
つまり彼、尾浜勘右衛門は秋原伊織を好いている。

そんな自分の気持ちに気付いたのは、本当につい最近だった。
今まで伊織に対して持っていたこの気持ちが恋だと気付いた時、持て余しそうになるそれに勘右衛門はひどく戸惑った。
それでもこうして親友を続けられたのは、皮肉にも伊織の立花先輩への告白だった。
熱っせられた気持ちに、急に水をかけられたみたいに、一瞬で冷えた自分の頭。
伊織は立花先輩が好き。
その言葉は自分の中にひどく馴染み難い言葉だった。

「さっさと諦めなよ、伊織」

額にかかる髪をそっとどかして、さっきよりも見やすくなった伊織の顔。
あどけない幼い女の子の顔。





続きはまた今度ー
これは仙蔵夢と見せかけた勘ちゃん夢です悪しからず^^

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