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◆ 03

伊織先輩は、すごく優しい先輩。
甘くて優しくてホッとしてあったかくて。すごくすごく大好きな先輩。
どんな先輩たちだって、伊織先輩には敵わないくらい、みんなみんな大好きなんだ!

でも、最近伊織先輩は一人でいることが多い。
それは僕達にとってはとても嬉しいことだ。だっていつも先輩たちが邪魔して遊べないんだもん!
でも、あの人、早苗さんが来てから先輩達はみんなみんなあの人につきっきり。
みんな早苗さんが好きなんだって。恋してるんだって。
見れば分かるよ。みんな目が必死だもの。あの人を手に入れようと必死だもの。

最初は伊織先輩もそうなのかなって思ってた。
だって先輩たちみんなそうだから。
でも、先輩は違った。伊織先輩だけはそうじゃなかった。
先輩たちの後ろから早苗さんに群がってる先輩たちを静かに見ているだけだった。
必死な先輩たちに何か言いたそうにして、でも相手にされなくなってて。

寂しそう。

こんなチャンス、他にないよね?
だって今まで邪魔してた先輩たちみんなあの人に夢中だもの!
今なら伊織先輩と何したって誰も邪魔しない!
は組のみんなやい組やろ組にもそう声をかけた。だって普段喧嘩してようと、一年生みんな伊織先輩が大好きなんだから、自分たちだけなんてフェアじゃないだろう?

伊織先輩をドッジボールに誘って、最初はは組だけだったけれど、途中からい組も乱入したし、ろ組も先輩の周りにうろついていた。
先輩は寂しそうな顔なんてしてなくて、にっこり笑ってて。

「先輩だーいすき!」

そう言ったら「俺もお前たち大好きだぞー!」ってみんなを一人一人抱き上げてくれたんだ!
先輩の首にかじりついて、ぎゅーってしたら先輩は嬉しそうにははって笑って。
本当に大好きだぞ!ってもう一回言ってくれた。

夕方になって、夕飯の時間だからって先輩と一緒に食堂に行った。
先輩と手を繋いで、争奪戦になったけど負ける気がしなかった、食堂に入ったら早苗さんと先輩たち。
でも伊織先輩はもう先輩たちを見なかったし、早苗さんも見なかった。
僕達だけ見て、嬉しそうに笑ってて、にっこりで。

やった、って思った。
先輩たちから伊織先輩を引き離せたんだ。
もう伊織先輩は先輩たちを見ないし、僕達を見ててくれてる。

「先輩、明日も遊んでくれますか?」
「んー、明日は委員会があるから、その後なら大丈夫だぞ」
「あ、先輩って用具委員でしたよね?何か修繕するんですか?」
「ああ、でもそんなになかったし、最近はすぐに委員会が終わるから。きっと明日も早く終わるよ。終わったら遊ぼう」

あ、ちょっと悲しい顔した。でもすぐに笑ってくれたけれど。
まだ、全部を、伊織先輩の全部を僕達で埋めることはできないけれど、でも。

きっと少しずつ先輩の中を埋めて、もう他の人なんて入れないようにしてやる。
後で気付いても遅いですよ。
もちろん忠告なんてしてやらないけれど。



後悔って、先に立たないから、後悔って言うんですよね。先輩たち。







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