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あの、彼が帰ってきた日から三年。
あの日私が落ち着いた後話してくれたことは、とてつもないほどの悲しみを私にもたらした。
鉢屋三郎は、殉職だと。
ああ、悲しく辛く苦しい気持ちが渦巻いて、それでもどこかで私は喜んでいた。
死んだのが雷蔵ではなくてよかったと。
生きて帰ってきてくれたことが嬉しいのだと。
私は雷蔵に抱きついたまま、一晩中泣き続けた。
醜い自分への絶望と、特別な存在を失った悲しみに対して。
「・・雷蔵、起きて」
「・・・・ん・・ぅ・・・」
うつ伏せのままこちらを向いて寝ている彼の穏やかな平和な顔は、いつ見ても私を幸せにしてくれる。
この安心しきった顔を見ていると、本当に安らぎという言葉の意味を知るのは簡単なのだと私にわからせてくれる。
ふわふわの長い髪を四方に散らした彼は、私が肩を揺さぶっても唸るだけで起きないけれど、寝顔は穏やかなままだった。
顔にかかった前髪が彼の目元に影を作っていて、私はそれを手で払いのけて、覗いた彼の額に唇を軽く押しつけた。
ちゅ、と軽い音を立てて離れた唇にくすぐったかったのか、少しふにゃりと顔を緩ませ、彼は睫毛を震わした。
「んんぅ・・・・・伊織・・?」
「おはよう雷蔵・・・・・・起きてる?」
「・・・んー、起きたー」
「ふふ、すぐに朝食にするからその間に起きててね」
「んー・・・」
私は彼の寝起きの悪さに、いつものことだとふっとほほ笑んだ。
寝起きの彼は私にいつも以上に甘えてくるし、舌足らずな物言いはとても可愛らしく思う。
この幸せは、もう二度と崩させない。
新しい命とともに、私が守って見せるから。
続
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