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「ねぇ、小さい子を懐かせるにはどうすればいいと思う?」
「は?」
五年は組の教室で間抜けな声が響いた瞬間だった。
「何言ってるの、庄左ヱ門?」
加藤団蔵は眉間に皺をめいっぱい寄せて、僕の目を覗き込んでくる。
訝しげな顔をするなよ。僕だってたまにはこんな質問くらいするさ。
だから額に手をやろうとするな!僕は熱なんて出てないんだから!
手を伸ばしてくる団蔵の手を払って、再度質問した。
「小さい子を懐かせるにはどうすればいいかと聞いたんだよ」
「はぁ、小さい子、ねぇ」
まだ何か言いたいことがあるのか?と目で問い詰めれば、やべっといった顔をして慌てて目の前で手を振った団蔵は、僕の不機嫌に気付いたのだろう。必死だった。
「まあそう怒るなって!懐かせるにはどうすればいいかだろ?」
「ああ」
「そうだなー、んー・・・とりあえず餌付け、かな?」
「餌付け」
確かに、言われてみればそうだな。
小さい子は得てして食べ物が好きだ。とくに甘いもの。・・・お菓子か。
僕は団蔵を見ずに立ち上がり、ありがとうと一声かけてそのまま学級委員長委員会で使われる部屋へと向かった。
あそこには、委員会で食べるお菓子がたんまりと保管されているのだ。
「伊織」
「あ!黒木先輩!」
桃色の装束を探していると、中庭に面している廊下に座っているのを見つけた。
この年ごろには珍しく、一人中庭を眺めていたみたいだ。
声をかけるとすぐさま反応して、あの笑顔を見せてくれた。可愛い。
一声かけて隣に座った。座っているのに頭二つ分ほどの身長差。
それがまた可愛さに拍車をかけている、と僕は思っている。
「何をしていたんだ?」
「お庭を見ていました」
「庭を?」
視線を庭に向けると、なるほど。学園を囲う塀の傍、可愛い小さな花が所狭しと咲き誇っていた。
「花は好きかい?」
「はい!大好きです!」
にっこりと満面の笑顔に、僕も自然と笑顔になる。彼女の隣にいるとき、僕はよく笑顔になれる。
にこにこ笑顔の彼女の頭を優しく撫ぜて、僕は本来の目的である餌付けを実行したのである。
彼女の前に差し出したお饅頭。学園長先生のお得意先の菓子屋さんのお饅頭だ。
美味しくないわけがない。
「よかったら一緒に食べないか?」
「いいんですか?」
「二つ貰ったし、せっかくだから一緒に食べてくれると嬉しい」
そう言えば、またふにゃりと笑って「ありがとうございます」と言ってくれた。
これは、とりあえず餌付け成功かな?
続
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