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夢見ることさえ

ああこれは夢なのだと、君を見た瞬間にわかってしまった。


<見てください、三郎兄さん!ほらっ!こんなに綺麗な花が咲いています。>
<お日さまの光が当たってキラキラしていてとっても綺麗です!>

道端に咲いている花を指さしては、満面の笑みを惜しげもなく散らして、伊織は私に報告してきた。
毎回そうなるものだから流石の私も辟易してしまって、一度伊織に理由を尋ねたことがある。

<何で私にも逐一報告してくるんだ?>
<伊織はそんなに花が好きだったか?>

伊織は困ったように笑って、私の手を取った。

<三郎兄さんに、綺麗な物のお裾分けをしたいと思っただけです。>
<ごめんなさい、迷惑だったならもうしません。>

最後に少し寂しそうに伊織がそう呟くものだから、私は慌てて伊織の手を握り返した。

<迷惑なわけない!>
<ただ、気になったから・・・・・また綺麗なものを見つけたら、私にも分けてくれるか?>

<もちろんです!>、と伊織は私の一等好きな顔で笑ってくれた。

「伊織」

ぽろりと涙が頬を伝ったのが、寝ている私にも分かってしまった。
幸せな夢を見て泣くなんて、なんと愚かなことか。
なんと無様なことか。
夢を見ることで伊織の笑顔を思い出せると言うのに、目を覚まして思い出すのは、あの日の最後の伊織の笑顔だ。
ほっと安堵したような、張っていた最後の糸が切れたような・・・・・何かを諦めてしまったようなあの笑顔。
そして崩れ落ちた伊織。

愛している者の最後の瞬間。

静かに目を開いても、まだ外は真っ暗で天井も何も見えなかった。
ただ月明かりに少し照らされて、なにかがうすぼんやりと見えている。
夢に見る伊織は、目を覚ますとあっという間に消えて行ってしまう。
どこへ行くのかわからないが、きっと私の届かない場所へ行ってしまうのだ。
伊織のように。

「は・・・」

夢はやはり覚めてしまうものだと、そう言いたいのか。
夢にとらわれるなと、あの日の伊織を忘れるなと、そう言いたいのか。
拳を握って目もとにあてた。
瞼を閉じて見えるのは、やっぱりあの日の伊織の笑顔。



「・・・浮かばれないのか?」

呟いた言葉は意図したものではなく、ぽろりと口を飛び出したもの。
その呟きにはっとする。

私に夢を見させるのはお前なのか?
私にあの日の顔しか思い出させないのはお前なのか?
お前は、天国へは行っていないのか?

浮かばれないのか?伊織。


何がお前をこの世にとどめているんだ?







お前だよ^▽^
 

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