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夜、兄さんの部屋の前の廊下で月を眺めていたら、兄さんの部屋から私を呼ぶ声がしました。
また夢でも見ているのでしょう。
私の夢を見て泣いているのでしょう。
兄さんの涙は見たくありません。
最近では兄さんの部屋の外で、一日の終わりをを過ごすばかりです。
竹谷先輩は、どうにもできないのだとおっしゃいました。
自分にはどうする事も出来ない。
三郎が自分でどうにかしなきゃならない。
伊織を忘れるのか、それとも悲しみを乗り越えるのか。
それはすべて三郎次第だ、とおっしゃいました。
私はその時初めて、明確にどうすれば兄さんを助けられるのか考えていなかったことに気付きました。
兄さんを助けるなんて、そんなの生きていない私には、もう死んでしまった私には難しいことです。
だからこそ生きている竹谷先輩に助けを求めましたのに。
私の声は兄さんにも誰にも、竹谷先輩以外には届かないから。
「浮かばれないのか?」
ハッとしました。
兄さんの声。
浮かばれないのか、と。
それはきっと私にあてた言葉。
兄さんの部屋に入ると、兄さんは起きていて天井をじっと睨んでいました。
でもどこか焦点の合っていない瞳は、私を探していらっしゃるのでしょうか?
浮かばれません。
兄さんが笑ってくださらなければ、私はこの世から逃れられません。
兄さんがこんなに泣き虫だったなど知りませんでした。
ね、兄さん。笑ってください。
兄さんに聞こえるはずないと分かっているのに、私は兄さんの顔の前に自分の顔を近づけて、そっとそっと囁きました。
兄さん
「笑って」
続
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