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ね、兄さん。
三郎兄さん。
私は兄さんが大好きなのです。
兄さんの温かな笑顔は誰にも負けないほどに私を元気づけてくれます。
兄さんの強い抱擁は私の寂しい心を吹き飛ばしてくれます。
兄さんの真っ直ぐな眼差しは、私の光です。
子供の頃に交わした約束をまだ覚えていらっしゃるでしょうか。
覚えていてくださっているのなら、どうかどうか笑ってください。
あの御日様のような笑顔を、またもう一度見せてください。
たったもう一度だけでいいのです。
「まったく、八ときたらまだ委員会の仕事をしているのか?」
「仕方ないよ、また逃げ出したみたいだし」
「毎回毎回ご苦労なことだな」
「はっちゃん、頑張ってー」
ははは、と笑いあって部屋の中から外を見る。
そこには必死になって毒虫を追いかける友の姿。
「おい三郎!雷蔵!兵助!勘右衛門!まったりしてないで手伝ってくれよ!」
泣きそうになりながら、それでも顔と目線は地面を這いずる毒虫たちにくぎ付けなままだ。
竹谷八左エ門は毎回こうして毒虫が逃げる度に、委員会の下級生と一緒になって学園中を走り回っているのである。
そしてそれを傍で見間もる四人の忍たま五年生たち。
これが彼らのいつもの光景。
笑いあって、話をして、また笑って。その繰り返し。
鉢屋三郎は、そんな日常の中、ふいに泣きそうになることがある。
あの日から心の片隅が凍ったように冷たいままだ。
あの柔らかな木漏れ日のような微笑み。
指通りのいいさらりとした黒髪。
ふわっと香る甘い香り。
私の、大切な大切な宝物。
私の後ろをちょこちょこついてくる、可愛らしい私の妹。
伊織は、お転婆な女の子だった。
私の後ろをついて回っていたせいか、私のすることをまねしたがりよく怪我をする女の子だった。
綺麗に切り揃えられた髪を気にも留めずに、ただ私の後ろをちょこまか動く様が、とても可愛くて愛くるしくて、愛おしかった。
愛していた。
今でも愛している。
妹なのにと、人は言うかもしれないが、それでも私はあの子を、妹を愛しているのだ。
一つ下の可愛い妹。
柔らかな髪と身体と雰囲気をまとった、まるで天使のような私の世界にただ一人の妹。
あの時止めていたならば、もっと違う結末があったのだろうか。
あの時もっと必死になって辞めさせておけば、私はあの子を永遠に失わずにすんだのだろうか。
あの時私は、本当は嬉しかったんだ。
ダメな兄でごめんな伊織。
愛してる、愛してる、愛してる。
愛しているよ。
続
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