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僕は自分が周りから少しおかしなやつだと思われているって知ってる。
それはいい。
だって僕も自分がどっかおかしいいのは知ってたから。
穴掘りが好きだし、蛸壺が好きだし、鋤が好き(あ、これ駄洒落じゃないから)だし。
それに、そんなの比べ物にならないくらいに、あの子が好きだ。
伊織が好きだ。
好きで好きすぎて怖いくらい、伊織のこと好きな自分が嫌になるくらい、伊織が好き。
伊織はよく僕の蛸壺に落ちてくる。
しかも決まって僕が掘り進めている最中の蛸壺に落ちてくる。
つまりは僕の上。
気配を感じると、ひゅーんぽすって感じ。
どしゃっとか痛い音がしないのは、伊織がまだ一年生で小さくてふわふわしてるから。
伊織の気配を感じたら、鋤も放り出して手を広げて待ってあげるの。
そしたら伊織は僕の腕の中に飛び込んでくるから。
正確には落ちてくるんだけどね。
あ、ほらまた。
ひゅーん ぽすっ
「また落ちてきたの?懲りないね」
「あ!綾部先輩!」
僕の腕の中にくるまれている伊織は僕の言葉に笑顔を見せて名を呼んでくる。
誰に呼ばれたって、別段感慨もなにもなかった自分の名前。
それこそ自分を認識するためだけの記号のようなものだと思っていたそれが、とても大事なもののように感じるんだ。
・・・欲を言うなら姓じゃなく名を呼んでほしいけれど。
「また落ちてしまいました」
毎度毎度ありがとうございます、なんてはにかんで言う君は知ってるの?
僕は最近伊織が通る場所にしか蛸壺を掘っていないこと。
それも伊織が通る時間をはかったうえで、蛸壺を掘っているってこと。
知らないでしょ?
「全く世話が焼けるなぁ」
「えへへ、すみません」
「ほら、ちゃんと捕まってないと落して行っちゃうよ」
そんなことするわけないのに、伊織は必死に僕の装束の合わせを握り締めた。
これも毎回のこと。
伊織は僕が言う事をどれも本気にとってくれる。
滝も三木ヱ門もタカ丸さんだって、僕の言う事の八割は嘘だって決めてかかってくるけれど、伊織は十割本気に取ってくれる。
これも伊織を好きな理由になるのかな?
伊織がきゅっと握りしめてる自分の装束の合わせを眺めながら、僕も伊織をぎゅっと抱きしめて足に力を入れてぴょんと飛んだ。
地上に出て伊織を下してあげる。
温かな体温から離れるのはもったいないけれど、どうせまた明日もこの温かさを感じられるのだから。
そう思うと素直に離すことが出来る。
・・・あ、ダメ。やっぱ今のなし。
下ろしたばかりの伊織をまた腕の中に抱きしめた。
だって明日から外で実習がある。
四日くらい帰ってこれない。
その間伊織には会えないし、伊織も蛸壺に落ちないし、僕もこの温かさを感じられない。
そんなの嫌だけど、実習はサボると滝がうるさい。
首の後ろを掴まれて結局は引っ張っていかれちゃうなら、今十分に伊織に触っておいた方が得だ。
「あの、綾部先輩?」
「んー」
「・・・」
「あー」
「・・・」
「うー」
「・・・」
「・・・」
伊織の匂いが好き。温かな太陽の匂いがする。伊織の癖っ毛な髪も好き。手に絡みついて離れない。伊織のくりっとした目が好き。僕を大きく写すから。伊織の柔らかな頬が好きだ。思わず食べちゃいたくなる。伊織のどこもかしこも好き。伊織だから好き。同じような身体の同じような目の同じような匂いの同じような髪質の女の子がいたとしても伊織以外いらない。伊織がいい。あのまま蛸壺の中にいればよかった。そしたら用具委員がそのうち来て穴を埋めてくれる。そしたらきっと僕も伊織も一緒に生き埋めだね。そしたらずっと一緒。ずぅっと一緒にいられる。墓はいらない。蛸壺があるから。ね、伊織。だいすき。
完
最後病んデレたwww
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