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知ってること

「ね、私知ってるよ」

私の目の前には普段見せるにやりとした笑みはなく、優しく穏やかな笑みをこぼした鉢屋三郎の姿があった。
彼から発せられる声音はとろけるように甘く、私の身体に低く響いた。
ぞくり、と背筋に寒気が走る。彼の瞳から目が反らせない。

彼の瞳は、恐ろしく本気だった。

暗い押入れの中、襖の隙間から洩れる明かりしか光源はなく、どこかぼんやりと彼の顔が浮かび上がる。
彼の顔も暗くほとんど見えないけれど、それでもその瞳の強さはどんなに暗かろうと、はっきりと私に彼の本気を伝えていた。
彼は知っている。その言葉の通りに知っているのだろう。
私が誰を好いているのか。私が誰に懸想しているのか。

そう、私は彼の顔の持ち主に懸想している。想いを抱いている。
私は不破雷蔵が好きだと、それを彼は知っている。

暗い押入れの中、眼前には彼の顔。その距離拳一つ分ほどしかない。
後ずさる私と身を乗り出す彼。
はたから見れば、まるで押し倒されようとしているかのようなこの体勢。
彼の真意がつかめない。

そもそも私は不破君に用があって彼らの部屋にお邪魔したというのに、なんでこんなことになっているのだろうか。
お邪魔した時には不破君もいて、鉢屋君と不破君と私の三人で少し世間話をしていた。
私の用は、不破君に借りていた本を返すというだけのものだったから、すぐに終わったけれど、どうせならもう少し一緒にいたかった。
だから何とはなしに世間話を始めたというのに。

気付いたら不破君はいなくなっていて、鉢屋君に押入れまで追い詰められていた。
いつ不破君はいなくなったんだろう?
いつから鉢屋君と話をしていたっけ?
まるで思い出せない。

「伊織、教えてあげようか。伊織が本当は誰を好いているのか」

何を言っているのだろう?私が好いているのは不破雷蔵、ただ一人だ。

「私の好きな人を知っているって言いたいの?」
「もちろん、さっきそう言ったろう?」
「・・・私が好きなのは不破雷蔵、ただ一人よ」

それがどうした、といった顔で鉢屋君の瞳を覗く。彼を睨みつけている自分が映っている。
ああ、不細工だな。可愛くない。彼には私がこう見えているのか。
そう思った瞬間、嫌だな、と感じた。何故なのかは分からないけれど。

「・・・・・・雷蔵が好きなんだ?」
「知ってたんでしょ?」
「ふーん、雷蔵ねぇ」
「・・・何がいいたいのよ」
「さて、何でしょう?」

鉢屋君の人を食ったかのような言い方に私はよくイライラする。鉢屋君はこう言うところがあるから苦手だ。
人を手玉に取って、掌で転がしている。きっと私の考えていることもお見通しなのだろう。
彼はそう言う嫌なやつだ。

それでも彼を嫌いだと言う人がほとんどいないのは、彼の人徳なのだろうけれど。

ふと、彼の目を覗くのをやめて、彼の顔全体を見た。不破君とまるっきり同じ顔。
でも、その表情は、彼のものとはいい難いものだった。

悲しそう。

「・・・どうしたの?」

無意識に声が漏れた。

「何が?」
「泣きそうな顔してる」
「っ!」

彼の表情が崩れた。眉に皺が寄っている。
苦しそうな瞳。何か言いたそうな唇。
瞳の奥に宿った炎を見た気がした。

その直後、彼の口に噛み付かれたのは、あまり良い思い出とは言えないだろう。








超!超中途半端!!イエーイ!

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